コロナウイルス対策の一環で、3 月上旬から学校が休校となりました。そのまま春休みを経て緊急事態宣言に伴う休校となり、長期間の休みとなりましたが、地域の実情に合わせて、少しずつ学校が再開されくることだと思います。それぞれの市町村や学校が感染対策を行いながら子どもたちを学校に迎え入れることとなります。
一方、子どもたちにとって学校再開は、通常の新学年の始まりとは全く異なっています。不安や心配を抱えての学校再開だと思います。新学年となって学級を担任される先生方がどのようなことに配慮して子どもたちに関わったら良いか、スクールカウンセラーの立場から考えてみました。
Ⅰ 子どもたちの状況について
1.コロナウイルスの感染拡大の特徴
今回のコロナウイルスの感染拡大という状況は、今までの災害とは異なった性格を持っています。地震や風水害による被災によって心身に影響を受けた場合には、被災そのものは過去のある時点の体験です。しかし、今回の状況は、過去のある時点に被害を受けたという体験ではありません。子ども達は、コロナウイルスの感染の危険性に日々さらされているという不安な状況に置かれているのです。
また、地震や風水害による被災は、目に見える形での被害や自分自身の生々しい被災体験があります。しかし、今回の状況は子ども達にとっては、目に見えたり生々しい体験が生じる状況ではありません。そのため、正体を明確に感じ取ることができず、かえって不安が助長される状況だとも捉えられます。
2.子どもたちは様々な不安を抱えている
テレビやインターネットではコロナウイルスについての情報が氾濫しています。家庭でも、子どもたちを感染から守るために、保護者から様々なことを言われていると思います。こういったことから、コロナウイルスに感染することそのものに大きな不安を抱えていると考えられます。また、日本でも死者が増えていることや、外国の死者がかなりの数に上っていること、若者でも死者が出たことなどを知り、自分自身が死んでしまうかもしれないという不安を抱えている可能性もあります。さらには、保護者が死んでしまうかもしれないという不安を抱えている可能性もあります。これらのことから、通常とは違って様々な不安を抱えて新たな学年での学校生活に望んでいると考えられます。
3.家庭のサポートが行き届かない場合もある
保護者も職場によっては、リモートワークになっているかもしれません。職種によっては、非常に忙しくストレスフルな勤務になっている可能性もあります。また、反対に仕事が激減して家庭で過ごす時間が増えている保護者も多いかもしれません。こういったことで、家庭での生活のパターンが今まで違っている家庭も多いと思われます。
また、地域によっては、登校も集団登校ではなく違う形態かもしれません。こういった変化も、子どもたちにとってはストレスとなります。大人には分からないところで、子どもたちは今までとは違ったストレスを抱えている可能性があります。
生活のパターンが異なっているため、大人の気づかないところでストレスを抱えている可能性もあります。大人も、今までと違う生活パターンのために忙しさが増して、子どものサポートまで気が回らない可能性も高いと思われます。
5.子ども達の健康状態の把握が重要
以上のように、子ども達は様々なストレスに直面し、不安を抱えていると考えられます。そのため、子ども達の健康状態を把握することがいつも以上に重要です。まず、食欲や睡眠が適切に取れているかどうかは、大切なポイントです。この点に関しては、家庭との連携が特に大切になると思います。また、吐き気や腹痛、嘔吐や下痢など消化器系の不調も子どもには生じやすいサインです。また、頭痛や頻尿・夜尿なども重要なサインです。こういったポイントに注目しつつ、学校でも子どもの健康状態に気を配ることが重要です。
Ⅱ 学級担任の指導のポイント
1.コロナウイルスについての説明を担任自身の言葉で語る
学校の休校については、子どもたちには分かりやすい説明は十分に行われていなかった場合が多いように思われます。その上に、今回の学校再開となっている。状況を理解し自分なりの見通しが持てることは、子ども達が自分の不安と上手く付き合っていくためには非常に重要です。今回は特に不安を抱えた上での再開であるため、再開される事やコロナウイルスについて、担任という立場から子ども達に自分自身の言葉でわかりやすく語ることが大切です。コロナウイルスは不安でも、このクラスの担任の先生は、しっかりと見通しを持ち冷静に考えてくれているということが子ども達に伝わることが大切です。子ども達が安心して学級生活を過ごすことにつながります。
伝える内容については、以下のような内容が大切だと思われます。まず、コロナウイルスについてわかりやすく解説し、学校を挙げて担任自身も感染予防に取り組んでいることを説明することが重要です。
そして、学校が再開されるのは、感染しやすい条件(3つの密)を避けることで、学校では安全に過ごすことが出来ることが分かったからなどと解説します。そして、子ども達が成長していくためには、学校での勉強や活動、生活が非常に大切だから、学校が再開されたなどと説明します。
さらに、どんなに気をつけていても、コロナウイルスにかかってしまう可能性があることも説明します。場合によっては、全人口の70 %が感染するまで終息しないと言われていることも解説が必要かもしれません。つまり、感染するのが悪いのではなく、一度に沢山の人が感染して病院での治療が上手く進まなくなることが問題なのだと、説明することも大切だと思われます。さらには、先に感染した人が元気になって帰ってきたらその人はコロナウィルスに少し強くなるから、まだ感染してない人を助けることができると伝えても良いかもしれません。
担任の先生が自分の言葉で説明し語ってくれることは、子ども達の安心感を高めます。それは、子ども達の適切な行動を増やし、学級内のトラブルの予防につながるだけではなく、子ども達の成長にもつながると考えられます。ぜひ、参考サイトをご参照の上、子ども達に先生自身の言葉で話をしてください。
2.常に安心の方向へ指導する
コロナウイルスの感染予防のためには、手洗いの励行やソーシャルディスタンスなど様々な行動を適切に行うことが求められます。そのため、通常の指導に加えて、感染予防のための行動が徹底できるように子ども達を指導することが必要になります。
こういった場合、子ども達の不適切な行動を指摘し、適切に行動するように指導することが一般的だと思われます。例えば、「手をちゃんと洗わないとダメだよ」と指摘し、「石けんをつけて30 秒間丁寧に洗ってね」と指導すると思います。その2つを続けて「石けんをつけて30 秒間丁寧に洗わないとダメだよ」と言うことも多いかもしれません。また、「コロナウイルスにかかっちゃうよ」などと、リスクを指摘することもあるかもしれません。しかし、こういった方法は、子ども達の不安を助長します。その不安によりさらに不適切な行動が増える危険性もあります。
不安に直面した状況での学校生活ですから、不安を助長する指導ではなく、安心の方向へ導く指導を日常的に徹底して続けることが大切です。「手をちゃんと洗うと安心だよ」「石けんをつけて20 秒間丁寧に洗うとウィルスをやっつけられるね」と指導すると、安心の方向へ行動を導くことが出来ます。
なお、「石けんをつけて30 秒間丁寧に洗わないとダメだよ」のような不安を助長する指導は、指導を見ている子ども達にも影響を与えます。適切な行動を取らない子どもに対して、他の子どもが教師と同じように、不適切な行動を指摘するようになると思われます。
不適切な行動をとる子どもとのトラブルやいじめにも発展するリスクがあります。さらには、学級内で感染が生じた場合に、不適切な行動をとっていた子どもに対する偏見や差別を助長する可能性があります。こういったリスクを避けるためにも、安心の方向へ指導することを徹底して行うことが重要だと思われます。
3.不安を言葉で表現することを促す
大きな不安を抱えて学校生活が始まる状況です。コロナウイルスの感染が続いている状況では、不安を感じることは自然なことです。そのため不安を持っていることを前提として、不安と上手に付き合っていくこと重視することが大切です。
そのためには、不安を感じていることを認め、不安を表現することを積極的に評価することが重要です。「不安があってはならない」という姿勢は、さらなる不安につながりますが、「不安があっても良いのだ」という姿勢は、不安が落ち着くことにつながります。
そこで、まずは担任自身が不安を持っていることを適切に表現することは、大きな意味があります。不安を語るということは、不安に飲み込まれていない姿を見せることになりますので、「不安を感じても良い」「先生は頼れる存在」だと子ども達が感じると思います。それが、子ども達の安心感を高めることにつながります。
また、子どもが自分自身の不安を言葉で表現した場合には積極的にほめることが重要です。「○○が心配」などと子どもが言葉で表現したら、「不安な気持ちをきちんと言えるのはすばらしいね。教えてくれてありがとう」などと子どもに伝えます。
さらには、子どもが不適切な行動を行った場合には、背景に不安が隠れていないか投げかけてみることも重要です。例えば、手洗いを忘れた子どもに厳しく非難を浴びせた子どもには「心配な気持ちなのかな?」と問いかけてみることがお勧めです。その不安を理解し、不安に共感的に関わることで、次の批難する行動を予防することができると考えられます。
以上のように、不安があることを前提とした指導が必要です。言葉で表現することを通して、不安と上手に付き合っていく力を引き出すことが重要です。
4.リラックスできる時間を増やす
新しい学級になれてもらうことを大切に考え、楽しい活動を積極的に取り入れる担任の先生も多いと思います。それは意味のあることだと思いますが、落とし穴もあります。楽しい活動であっても、心身には疲れが生じるからです。心身の疲れが生じると、適切な行動を取ることが難しくなります。適切に休息をとり、疲れを回復することが不適切な行動を予防することになると考えられます。
そのため、学級内でリラックスできる活動を出来る範囲で取り入れていくことが重要だと考えられます。例えば、授業の終わりに、リラックスできる10 秒呼吸法を実施することも一つの方法です。一日に何度か実施するとより効果的だと思いわれます。リラックスすることは、免疫力を高める効果もあるので、感染予防にも間接的な効果が期待できると思われます。
10 秒呼吸法
- いすの背に軽くもたれて、両手はひざの上に置いて楽な気持ちで座ります。
- 気持ちを落ち着かせて、静かに眼を閉じます。
- 1、2、3、と心の中で数えながら、鼻から息を吸います。
- 4 で息を止めます。
- 5、6、7、8、9、10 と心の中でゆっくり数えながら、口から息を吐き出します。
- ③~⑥を2 ~ 3 分間くらい続けます。
- 最後に、両手をグーパ、グーパと閉じて開く動作を繰り返してから、伸びをします。
5.安全に身体接触できる活動を取り入れる
ソーシャルディスタンスを保つことが求められるため、身体接触を伴う遊びも制限されることになるとかもしれません。しかし、子どもたちは、身体を使って触れあいながら遊ぶことが自然なことです。 大人にとっては、ソーシャルディスタンスを保つことは難しくないかもしれませんが、子どもにとっては意外と難しいことなのです。人との接触を避けなくてはならない状況は、子どもたちには、大きなストレスになると考えられます。
また、近づいて話したり身体接触を伴う遊びをしていると、大人から注意されることも多いかもしれません。大人から見ると、大人がいくら注意しても、子どもたちは近づいて話をしたり、遊んだりすることばかりかもしれません。これは、ある意味自然です。子ども同士の関わりというはのそういうものだからです。単に止めさせようとするのではなく、安全に人と接触する機会を作ってあげることが必要になると考えられます。そこで、安全に身体接触できる活動を取り入れることが学級運営上有効ではないかと考えられます。
例えば、2 人が協力して背中合わせで立ち上がる運動も良いと思われます。2 人が背中合わせになって、お互いのバランスを取りながら同時に立ったり座ったりを繰り返す運動です。お互いが、背中合わせで背中が接触する活動ですので、換気の良い広い場所で行えば、感染のリスクは小さいのではないかと思われます。また、相手の存在を感じつつ相手を信頼し、身体を預けることも必要な活動です。ソーシャルディスタンスが必要とされる時期ですので、こういった活動の意義は大きいと思われます。
また、お互いに肩から背中を軽くマッサージすることも良いかも知れません。マスクをした上でしゃべらずに行って、その後にしっかりと手洗いをすれば、感染のリスクは小さいと考えられます。
ところで、ソーシャルディスタンスはウィルスを避けることが本質ですが、ウィルスは目に見えず発見することができないため、人との距離を取るようにするものです。人を恐れ、人を避けることとは違います。この活動は、人に接触しても、手洗いをすることで感染が避けられることを体験する活動でもあります。ソーシャルディスタンスの中での意義は大きいと思います。
さらに興味のある方はタッピングタッチという方法がおすすめです。震災後の心理支援で注目され、様々な心理的な効果が研究で確かめられています。小学校でも実践されています。参考サイトから情報を得てください。
背中合わせ立ち
- 2 人で背中合わせになって足を伸ばして座ります。
- お互いに身体を相手に預けながらバランスをとります。
- お互いにタイミングを合わせてゆっくり立ち上がります。
- そのままゆっくり座ることもできます。
6.学級独自の行動パターンを作る
学校が再開されたとしても、再び休校となる可能性もあります。また、学級に所属している子どもが、家庭の判断で欠席する場合もあると思われます。しかも、ソーシャルディスタンスをもとめられるため、関わり合いを持つ活動が難しいと考えられます。こういったことから、通常の場合よりも、学級としてのまとまりや担任と子ども、子ども同士の関係性を育てていくことが難しい状況にあると思われます。
そのため、学級への所属感や担任との関係性を感じられる活動を工夫することが求められます。その一つとしては、学級のオリジナリティを出した行動パターンをつくることも良い工夫だと思います。例えば、手洗いをするときに、20 秒程度しっかりと洗うことが求められますが、その時に、誰もが知っている童謡を口ずさむことが推奨されています(例:どんぐりころころ)。その童謡に学級独自の替え歌を作って、手洗いをするときには、それを口ずさみながら洗うようにすることは、一つの工夫です。子どもは手を洗う度に、学級や担任の先生のことを思い出すことになります。
また、ソーシャルディスタンスがもとめられるため、子ども同士の挨拶やちょっとした子ども同士のスキンシップも難しい状況になりがちです。たとえば、挨拶や褒めるときに使う学級独自のジェスチャーを決めて担任の先生が率先してやってみせることも良い工夫だと考えられます。子ども達にそのジェスチャーが広まれば、ソーシャルディスタンスを保ちつつクラスへの所属感を高め、子ども同士の関係性を育てることにつながると考えられます。
参考サイト
・『新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~』日本赤十字社
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200326_006124.html
・『コロナウイルスについて子どもに話す(保護者向け)』日本学校心理学会
http://schoolpsychology.jp/info/topics/2020/200310-full.pdf
・タッピングタッチ