コロナウイルス感染拡大への対応策の一つとして、学校の休校が続いています。休校中の子どもたちへの対応や支援として、電話での連絡が行われています。
一方、今回の休校中の子どもへの電話連絡は、いろいろと難しい面があると思います。新学年がしっかりとスタートできていない状況で休校期間が長くなっていますので、先生方と子どもとの基本的な関係作りができていない場合も多いと思います。そのため、事務的な電話連絡になりがちかもしれません。
しかし、人との接触を避けるように求められている状況ですので、電話とはいえ直接的に子どもに関わることのできる、非常に重要な機会ではないかと思います。そこで、カウンセラーの立場から、子どもとの関係づくりにプラスになるようなヒントをご提案いたします。少しでも何かの参考になれば幸いです。
電話連絡の目的
電話連絡の目的は、以下のような3点が考えられます。
- 子どもの安否確認や健康状態の確認する
- 学習への動機付けを促し、学習活動の継続をサポートする
- 子どもへの関わりを継続する
以上のような3点に沿って、考えていきます。
子どもの安否確認や健康状態の確認
子どもの安否確認という点では、子どもと話ができて、ある程度元気な様子であれば、問題ないと考えられます。健康面状況の確認については、確認するだけではなく、できれば、健康維持につながる行動を促したいところです。ただし、「早寝早起きするんだよ」などと勧めても、実際の行動の変化にはつながりにくく、工夫が必要だと思われます。
例えば、以下のようなやりとりを工夫してみることもお勧めします。
T:元気でやってますか?
S:はい、まあまあ、元気です。
T:それは、良かった。元気って言っても、元気度ってどれくらい?
10点満点にしたら、何点ぐらいの元気さ?
S:えー10点満点ですか・・・?
T:そうそう。最高に元気が10点、最悪に元気がないのが0点だとしたら?
S:だいたい、5点ぐらいです。
T:そうなんだ、5点ぐらいの元気さなんだね。
5点の理由っていうか、これがあるから5点みたいな…、
5点分って何があって、5点なのかな?
S:えー、・・・。まあ、朝は、一応8時には起きてますし、
熱もないし、ちょっと食べすぎだけど・・・。
T:ああ、そうなんだね。ちゃんとできてるところも、あるんだね。
ところで、今は5点だけど、もし、1点だけ上がったら、
どんなことしてると思う?
S:えー、1点あがったら、6点でしょ。6点になったら、
たぶん、もうちょっと早起きするかな。
えーと、もしかしたら、ちょっと勉強するかも・・・。
えー、やっぱりしないかも・・・。
T:まあ、勉強するかもしれないわけね。いいねぇ。早起きは確実。
S:ええ、まあ。
1点だけ上がったら、という質問は一種のイメージトレーニングです。良い状態の自分を想像させることによって、その状態に少しだけ近づいてしまう効果があります。「1点あげるためには、何をしたら良い?」のように聞くと、義務感が生じてしまうので、かえってその状態から遠ざかってしまいがちです。そのため、聴き方には注意が必要です。「1点上がったら、どんなことしてる?」「1点上がって、○点になったら、何してる?」という聞き方がおすすめです。「分からない」という答えでも、少し粘って、「ちょっと考えてみて」と考えさせることもお勧めです。良いことを考えさせるので、あまり問題は生じません。
学習への動機付けを促し、学習活動の継続をサポートする
課題や自宅学習を続けているかを確認することも重要です。ただし、「勉強しなきゃダメだよ」などと勧めても、実際の行動の変化にはつながりにくく、工夫が必要かと思われます。
例えば、以下のようなやりとりを工夫してみることもお勧めします。
T:勉強はやってますか?
S:あまり、やってません。
T:あまり、っていうことは、少しは、やってるのかな?
S:いいえ、全然やってません。
T:全然なんだ。そうか…。
まあ、そういうことを正直に言うのは素晴らしいことだね。
S:あー、はい。やろうとは思ってるんですけど・・・。
T:勉強するときには、どの教科から始める計画?
S:えー計画ですか・・・、計画はないんですけど・・・。
T:うん。計画は、ないけど、どれから始める、というか、始めそう?
S:うーん。やるなら、多分、理科か国語だと思います。
T:そうか、理科か国語なんだね。素晴らしいねぇ。
S:どっちかなぁ? 理科かなぁ、国語かなぁ?
T:えー、国語だと思います。
S:じゃあ、国語からはじめましょう。
T:国語の何から始めるのがよさそう?
S:漢字から始めます。わりと、漢字は好きなんです。
T:そうなんだ。素晴らしいね。漢字をやるときには、どこでやる? 自分の机?
S:えーと、たいてい、食事のテーブルで勉強するんですよ。
そのほうが、やる気がでるっていうか・・・、
自分の机だと、すぐに遊んじゃうから。
T:やる気が出るんだね。いいですねぇ。
ほかに、やる気がでる勉強って何?
このやり取りも、一種のイメージトレーニングです。「やらないといけない」という義務感を刺激する方法ではありません。先生とのやり取りの中で、勉強を始めている自分自身のイメージが自然に湧いてくるようにやり取りをしています。それを通して、子どもが自然と勉強を始めている自分自身の状態に少し近づいていくことが期待できます。
もし、勉強しているという反応があった場合には、「一番最近に勉強したのはどの教科?」などと、具体的に思い出してもらうのが良いと思います。そして、いつ勉強したのか? どこで勉強したのか? について具体的に聞いて、それを思い出してもらいます。そうすると、その時の自分に今の自分が近づいてきて、勉強への動機づけを少し高めることができると期待されます。
また、元気さを点数化させたように、勉強の頑張り度を点数化させてみることも面白い聴き方だと思います。例えばこんな感じです。
T:勉強の頑張り度は、10点満点で何点だと思う?
S:3点です
T:3点の理由っていうか、
3点分は、これをやってるから、3点、みたいなのって、何かある?
S:昨日は、ちょっとだけやったけど・・・、
すぐに飽きてやめちゃったから、3点かな
T:ちょっとでも頑張ったのはよかったよね。
じゃあ、もし、1点だけ上がったら、どんなふうに勉強する?
どんなふうっていうか、どこからとか、何から勉強するかな?
子どもへの関わりを継続する
学校では、学習活動や部活動などの場面で、何らかの具体的な活動を通して関わりを持ち、信頼関係を深めていくものです。しかし、やるべきことを指示して、生徒がそれに応えるという関係では、信頼関係を深めていくことにはつながりにくいものです。生徒と教師という立場は違っても、一緒に活動しているという実感が関係を深めていきます。
一方、休校中の電話でのやり取りは、具体的な活動を通して関わるという形にならないため、生徒との関係を深めることにつながりにくいと思われます。また、共通の話題を持って、それについて話すことができれば、関係を深めていくことができます。しかし、今回の休校中の電話連絡では、共通の話題が持ちにくいため、おしゃべりを通して関係を深めることも難しいといえます。
上記のような、健康面の状況確認や学習を促すかかわり方は、生徒にとっては、健康面のことや学習のことについて一緒に話している体験になります。生徒との信頼関係づくりにつながっていくことも期待できます。