文部科学省国立教育政策研究所の生徒指導・進路指導研究センターが平成27 年7 月に発行した「いじめに備える基礎知識」という文書が非常に良くまとまっていて分かりやすいので、紹介したいと思います。
いじめの問題は、ニュースで見かけることも多いのですが、報道されている内容に首をかしげるようなこともあります。そのため、子どもに関わる仕事をしている人達は、基本的な知識を確認した方が良いのではないかと思っていました。この「いじめに備える基礎知識」は、そのために非常に役立つ資料だと思います。
「いじめに備える基礎知識」の主な内容
大きく6つの内容が書かれいます。
1.いじめの理解と定義:「いじめイメージを更新する」
いじめという言葉をめぐって混乱があるため、それを整理するための内容が書かれています。
2.いじめの発生実態:「いじめの特徴を正しく知る」
いじめには、「暴力を伴ういじめ」と「暴力を伴わないいじめ」があって、この2つを区別することが重要であることが書かれています。
3.いじめの未然防止:「いじめを起きにくくする」
「暴力を伴わないいじめ」を予防するためには、居場所づくりや絆づくりが大切であることが書かれています。
4.早期発見・早期対応:「速やかに組織で対応する」
早期発見しただけでは不十分で、組織として情報の共有化し、行動を一元化して早期対応することの大切が書かれています。
5.いじめに対する措置:「起きたいじめに対処する」
いじめには、「国の基本方針」の別添「(3)いじめに対する措置」を参考に、個柔軟かつ適切な対応を組織的に行っていく必要があると書かれています。
6.基本方針の点検・見直し:「意図的・計画的に取組を進める」
いじめの対策を効果的に行うためには、定期的なPDCAサイクルを通して改善していくことが大切であると書かれています。
ここでは、「1.いじめの理解と定義」、「2.いじめの発生実態」、「3.いじめの未然防止」の3つにしぼって、しかもそこから重要な点を抽出してお伝えいたします。
いじめの理解と定義
いじめに関する、現在の公の定義は、「いじめ防止対策推進法」で用いられているものです。その定義は、以下の通りです。
「当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」
法律で明確に定義されているわけですから、これ以外にいじめの定義はありません。全ての議論や実践は、この定義を踏まえた上で行われなければなりませんね。
しかし、このいじめの定義は、「心身の苦痛を感じているもの」という定義ですから、非常に幅広く様々なものが含まれているわけです。
そのため、この定義に含まれる「いじめ」を大きく3つに分けています。
・一般的な暴力
暴行罪や傷害罪、恐喝罪、器物損壊罪などの既存の刑法で禁じられている行為
→法律に違反する行為として適切に対処しなくてはならない
・暴力を伴ういじめ
行く手に立ちふさがる、靴やカバンを隠す、持ち物に落書きする、
殴るまね、殴なぐってやると口にしたりする、威圧する・怖がらせる
軽く小突く、プロレスごっこと称して技をかける、など
・暴力を伴わないいじめ
悪口、冷やかし、からかい、噂を広める、仲間外し、無視、など
ポイントは
行為そのものの問題性の大きさ ≠ 子どもが受ける心身の苦痛の深刻さ
ということです。
一見深刻に見えない、「暴力を伴わないいじめ」であっても、子どもが心に深刻なダメージを受けている場合があります。実際、「暴力を伴わないいじめ」の末に、自殺に追い込まれたような事例は、いくつも見られます。そういった事例では、子どもや保護者からの訴えがあって、ある程度いじめに気づいていたにもかかわらず、その深刻さに気付かずに適切な対処がなされていなかったことが、報告書などをとおして明らかになっています。
いじめの定義は、「心身の苦痛を感じているもの」という定義ですから、「心身の苦痛」の深刻さをしっかりと理解して、対処してくことが大切ですね。
いじめの発生実態
「暴力を伴ういじめ」と「暴力を伴わないいじめ」を分けて考えることが大切だと指摘しています。
「暴力を伴わないいじめ」は、大半の子どもが複数回の加害・被害経験を持っています。
「暴力を伴わないいじめ」の典型例である「仲間はずれ・無視・陰口」の場合、小学4年生からの6年間で9割近くが被害経験を持っています。また、加害経験もほとんど同じ傾向を示しています。決して、一部の児童生徒だけが繰り返し被害を受けているとか、加害に及んでいるとかいうわけではありません。たまたま巻き添えになった、あるいは魔が差した程度の子供が多いということですらなく、幅広い子供が被害にも加害にも頻繁に巻き込まれていることがわかります。文字どおり、どの子供にも起きうることが示されています。
「暴力を伴わういじめ」は、加害または被害経験がある子どもは半数以下
「暴力を伴わないいじめ」:気づかず、見過ごしやすい
「暴力を伴ういじめ」 :気づきやすいが、気づいても見逃しやすい
「暴力を伴わないいじめ」は、大半の子どもがかかわっていて、大人は、気づきにくいため、すべての子どもを対象にした未然防止の活動に力を入れることが大切とのことです。
「暴力を伴ういじめ」は、気づいたときに、見逃さずに速やかに対応することが対応の基本とのことです。
いじめの未然防止
「居場所づくり」・「絆づくり」→「暴力を伴わないいじめ」の未然防止
いじめの未然防止には、「居場所づくり」と「絆づくり」が重要であることがかかれています。「居場所づくり」と「絆づくり」は似ている面もありますが、異なっているものです。それぞれ、以下のようにまとめられます。
「居場所づくり」とは、
・大人が、児童生徒が安心できる、 自己存在感や充実感を持てる、そんな場所を提供できるように授業づくりや集団づくりを行う
・大人が、授業や行事の中で、どの児童生徒も落ち着いていられる場所をつくりだす
「絆づくり」とは
・大人が、全ての児童生徒に充実した集団体験を提供する
・子どもが、人と関わることを喜びと感じられる体験
・子どもが、他者から認められ、他者の役に立っているという「自己有用感」を感じる
「居場所づくり」は、ある程度大人が主導になって、「場」を作っていくことが大切なのだと思います。その「場」を基盤として、子どもが安心安全に人とかかわりあう体験を重ねていく中で、自然と絆がつくられていくことになるのだと思います。子どもが主体的に人とかかわりあうことをどうやって促していくのかということが、非常に難しい課題ではないかと思いました。
国立教育政策研究所の「いじめに備える基礎知識」
以下のリンクからダウンロードできます。
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/2507sien/ijime_std.pdf