森俊夫先生の書かれた、『ブリーフセラピーの極意』(ほんの森出版)を全てのカウンセラー・セラピストの皆さんにお勧めします。
ブリーフセラピーとは
ブリーフセラピーは、「短期療法」と訳されます。ブリーフ(brief)というのは、「短い」という意味です。一般に、カウンセリングは、少しずつ変化することを大切にすることもあり、長く時間がかかるものと考えられてきました。しかし、ブリーフセラピーでは、効果的に関わることを重視していて、その結果として、「短期」で変化が生じることを目指しています。そのため、ブリーフセラピー(短期療法)と呼ばれています。
ブリーフセラピーでは、問題の要因が個人の中にあると考えるのではなく、人と人、人や環境との相互作用にあると考えます。そして、その相互作用の変化を促して問題の解決・解消を目指します。
そして、ブリーフセラピーでは、変化が必然と捉え、変化を促していくことを重視しています。
おまえは既に変化している
『北斗の拳』という漫画があります。その主人公のケンシロウは北斗神拳の技で敵を瞬殺するのですが、その時に相手に向かって「おまえは既に死んでいる」と告げます。敵は、その言葉を告げられたときには、まだ、普通に意識もあり、戦いに負けた感覚も、死に直面している感覚もありません。しかし、そう告げられた直後に、独特の悲鳴を上げながら命を落としてしまいます。
森俊夫先生は、北斗神拳の使い手ではなく、ブリーフセラピーの使い手です。ブリーフセラピーの極意が書かれたこの本を読むと、森先生はクライエントに向かって「あなたは、既に変化している」と言うのではないかと空想してしまいました。
もちろん実際には、そんなことは言いません。多分、森先生はクライエント自身が、自分がどう良くなっているのかを語れるきっかけをつくり、クライエントが語るエピソードに応えて、驚いたり、なぜそんな良い変化が生じたのか?(成功の責任追及)を聞くのではないかと思います。
ブリーフセラピーでは、カウンセラーと話している間に、クライエントに変化の瞬間が訪れます。しかし、クライエント自身はその変化に気づかないものです。その変化に気づくのは、面接室を出たあとです。日常生活に戻り、ちょっとした活動の中で、(既に生じていた)自分自身の変化に気づくのです。そして、次回のカウンセリングの機会に面接室に戻ってきて、カウンセラーに良い変化が生じたことを話すのです。カウンセラーは、クライエントの話を聞きながら、良い変化に驚いたりとコンプリメントをしつつ話を聴くのです。
ブリーフセラピーには、数々の技法があって、その技法に焦点が当たりがちです。しかし、ブリーフセラピーの本質はそこにありません。クライエントにこそ、良い変化を生じさせる力があるのだ信じる姿勢がブリーフセラピーの本質です。そう信じているからこそ、ブリーフセラピーが誇る数々の技法が生きてくるのです。ほとんどのクライエントは、自分自身が「もう既に変化している」ことに気づいていないのですが、それに気づくために、数々の技法が使われるのです。
『北斗の拳』を読んでも、北斗神拳の極意を学び北斗神拳の使い手になることは(多分)できません。しかし、森俊夫先生の書かれた『ブリーフセラピーの極意』を読めば、ブリーフセラピーの極意を学び、ブリーフセラピストになることができます。
そして、クライエントがまだ気づいていないときに「あなたは既に変化している」と言える(けど言わない)カウンセラーになれます(たぶん)。
ブリーフセラピーの“基本的”極意
「ブリーフセラピーの極意」では、第1章で「基本的極意」が解説されています。その内容は、
1 ブリーフなかかわりをしようと思うこと
2 ラポール形成を素早く
3 面接(かかわり)は、明るく、楽しく、楽に
4 これから(未来)のことに、明るい展望が持てる面接に
の4つです。
この章は、ブリーフセラピーが「ブリーフ」であることの本質を解説したもので、一番大切な章です。この章に書かれていることが本当に分かれば、森先生によれば「あとはお好きにどうぞ」(p67)なのです。
ブリーフセラピーをカウンセリングで使おうと思っている人には、この章は必読だと思います。それだけではなく、ブリーフを目指さないカウンセリングを行っている人にも、この章を読んでほしいと思います。ブリーフを目指さないカウンセリングには、ブリーフを目指さないからこその価値があると思います。ブリーフセラピーの基本的なスタイルを通してブリーフセラピストが実現しようとしていることが、ご自身のカウンセリングの中でどのように実現されるのか、実現されないのかを意識されてみることをお勧めします。それが、きっとご自身のカウンセリングを深めるものになるのではないかと思います。
ブリーフセラピーの各技法の極意
解決志向アプローチなどのブリーフセラピーに関する書籍でも、様々な技法について解説されています。この「ブリーフセラピーの極意」の中では、他の類書では語られていない、『極意』が解説されています。
少しだけ、『極意』を紹介したいと思います。
ミラクルクエスチョン
ミラクルクエスチョンは、難しい質問なのですが、難しいからこそ、質問する意味があるということです。「ビョーンと飛ばすこと」が極意なのです(p96)。
ミラクルクエスチョンのバリエーションとして、いくつかの質問技法が紹介されていました。「レーザービームクエスチョン」も紹介されていましたが、私が森先生の研修会に参加したときには、森先生は「レーザ-ビームクエスチョン」のことを楽しそうに、語っていたことを思い出しました。「ミラクルクエスチョンは、大抵の場合、一回家に帰ってから寝ないとダメでしょ、そうじゃなくて、面接室を出たらすぐに、良い変化が起きた方が良いじゃん。」と楽しそうに語っておられたことを思い出します。
スケーリングクエスチョン
ミラクルクエスチョンとは、反対に、スケーリングクエスチョンは使いやすい技法です。今の状態を数値化できるので、状況や状態を理解しやすくなります。ブリーフセラピーではない、カウンセリングのアプローチでもスケーリングクエスチョンは、抵抗なく使うことができると思います。
使いやすいからこそ、何をスケーリングしてもらうのかということが一つの『極意』なのだと思います。しかも、どんなふうにスケーリングしてもらうのかも、一つの『極意』なのだと思います。
詳しく知りたい方は是非、『ブリーフセラピーの極意』を読んでみてください。
問題の外在化
解決志向アプローチ(解決志向ブリーフセラピー)の最も素晴らしいところは、問題に焦点を当てない、問題を取り扱わないということです。ダイレクトに「解決」を目指していくのです。
しかし、「問題を取り扱わない」ということは、大きな弱点になるときがあります。
その時に必要なのが、「問題の外在化」なのです。
ある意味、「問題の外在化」を使えることによって、解決志向アプローチ(解決志向ブリーフセラピー)は、最強となるのです。
「ブリーフセラピーの極意』目次
プロローグ 「ブリーフ」ってな~に?
第1章 ブリーフセラピーの基本的極意
1 ブリーフなかかわりをしようと思うこと
2 ラポール形成を素早く
3 面接(かかわり)は、明るく、楽しく、楽に
4 これから(未来)のことに、明るい展望が持てる面接に
第2章 ブリーフセラピーの方法論の極意
1 リソースを見つける極意
2 コンプリメントの極意
3 ミラクル・クエスチョンの極意
4 ミラクル・クエスチョンのバリエーション
5 「ゴール」の設定の極意
6 スケーリング・クエスチョンの極意
7 アクションと課題にかかわる極意
8 「問題の外在化」の極意
第3章 ミルトン・エリクソンの世界―ブリーフセラピーの理解を深めるために
1 ミルトン・エリクソンってどんな人?
2 ミルトン・エリクソンが使った技法
参考文献
おわりに
読者の皆様へ 森先生を偲んで 黒沢幸子
『ブリーフセラピーの極意』をもっと知りたい人は
ほんの森出版社のホームページでは、この本の内容が一部公開されています。「目次」、「はじめに」、第1章「1ブリーフなかかわりをしようと思うこと」、第2章「4ミラクル・クエスチョンのバリエーション」、第3章「2ミルトン・エリクソンが使った技法」、「おわりに」、「著者紹介」を読むことができます。
「目次」では、細かな項目まで公開されていて、それを読むだけで、ブリーフセラピーの重要なキーワードを一覧することができます。また、「はじめに」では森先生の雰囲気が良く伝わってくるように感じます。第1章から第3章までの本文も、全部で16ページも読むことができて、それだけでも学びがあります。「おわりに」には、「極意」について、極めて大切なことが書かれています。
これらを全て無料で読むことができます。ぜひ、以下のリンクからほんの森出版のホームページを訪れてみてください。
ブリーフセラピーについては以下もご参照ください
ブリーフセラピーに含まれる心理療法・カウンセリングの方法論ついては、この本の中で5つ名前が挙げられています。
・MRIブリーフセラピー
・戦略的アプローチ
・NLP(神経言語プログラミング)
・エリクソニアン・アプローチ
・解決志向ブリーフセラピー(SFBT)
最後の、「解決志向ブリーフセラピー」というのは、私のホームページでは「解決志向アプローチ」として紹介しております。解決志向アプローチについては、以下のリンク先もご参照ください。