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心の健康が脅かされる大きな原因は?

 

心の健康が脅かされる原因を考えるためには、動物が持っている防衛反応から考えていく必要があります。動物の命を守る緊急対応システムは、外敵に襲われた時に命を守る仕組みとして働いています。図のような場面です。

闘争逃走反応

命の危険には闘争逃走反応が生じます

 

「命の危険」に遭遇した場合、最初に「闘争逃走反応」が生じます。最初の数分間で生き延びられるかどうかが決まる状況のため、過覚醒、感覚過敏、発汗、心拍上昇、血圧の上昇といった、逃げたり、戦ったりするために、必要な機能が集中的に高まります。そして、消化機能、生殖機能など数分間程度停止しても生命に差し障りのない機能は働かなくなります。

 

命の危機にはフリーズ反応が生じます

 

しかし、戦っても逃げようとしても上手くいかず、外敵に捕らえられてしまう場合あります。まさに「命の危機」に直面している状況です。

 

その場合は防衛反応として「フリーズ反応」が生じます。浅い呼吸、徐脈、血圧低下し、筋肉の弛緩、瞳孔散大などの反応が生じ、まるで死んでいるようになります。よく「死んだフリ」などと言われますが、フリではなく、実際に生理的な機能が幅広く低下している状況です。

 

外敵が興味を失う可能性を高める、体力の消耗を抑えて逃げ出す機会に備える、外傷を負っても出血が抑えられるなどの利点があると言われています。

 

実際、ネコに捕まったネズミが死んでいるように見えるのですが、ちょっとしたすきにパッと逃げ出してしまうような動画をSNSなどで見かけることもあります。これがフリーズ反応です。

 

重要なことは、「闘争逃走反応」も「フリーズ反応」もどちらの反応も、命の危険や危機を乗り切る数分間の防衛反応だということです。

 

人間の場合

人間も動物なので、同じ仕組みが働いています。

 

ただ、人間の場合は外敵に襲われたときだけではなく、社会的なストレスや対人関係のストレスが生じた時にもこの仕組みが働いています。クレームを受けた時などは典型的な場面です。「闘争逃走反応」が生じて、心臓がドキドキして過覚醒になります。過覚醒になると論理的思考が難しくなってきます。

パワハラで、フリーズ反応が生じている図

 

しかも、こういったストレス状況では戦うことも逃げることもできないため、次第に「フリーズ反応」に近づいていきます。呼吸が浅くなり、冷や汗をかいて、頭が真白になってしまうのです。

 

こういった様々な反応が生じるのは、自分がしっかりしていないからでも、心が弱いからでもありません。生物の長い進化のプロセスで動物が獲得した命を守るシステムが働いているだけなのです。

 

やっかいなことに人間では大脳が発達し、思考力を持つようになりました。実は、それがさらに人間を苦しめています。様々なトリガー(きっかけ)によって、不快な記憶を思い出したり、未来のことを想像して、いろいろと考え始めてしまうのです。

 

 

寝ようとしたら、会社のことを考えてしまい辛くなってしまうという下の図のような場面は、典型的な場面です。 

睡眠時に記憶によって不安が生じている

 

こんなふうに色々と考えてしまう場面では、生命の危険も危機も生じていません。それのに、数分間の緊急対応システムである「闘争逃走反応」や「フリーズ反応」が生じてしまうのです。

そして、焦燥感、不安、抑うつ感など、様々な辛い感情が心の中に生じて心の健康が阻害されてしまいます。それだけではなく、様々な身体機能が低下してしまいます。それが体調不良につながっていると考えられます。 

 

動物の場合は数分間の緊急対応システムが働いて、外敵から身を守ることができたらまた通常の状態に戻ります。

 

しかし、人間の場合は違います。対人関係のストレスなど社会的なストレスは少なくとも1週間以上続くことがほとんどです。数ヶ月以上続くこともあります。つまり、「闘争逃走反応」や「フリーズ反応」がその期間中ずっと、様々なきっかけで働いてしまうのです。そして、心の健康が損なわれ、体調も崩れてしまう状況に陥ってしまいがちです。

 

繰り返しになりますが、個人の能力や性格が原因ではありません。現代の人間が直面する苦労に、動物の命を守る緊急対応システムに合っていないからなのです。人間社会の変化が、動物の進化のスピードを超えてしまっているため、進化のプロセスで獲得した命を守るシステムでは対応できなくなっているのです。

 

心の健康を保つには

 

苦しい気持ちが続くとき、辛い気持ちに悩まされているときには、まずこの記事を思い出して、「動物の緊急対応システムが働いているんだな。進化のスピードを追い抜いてしまっているから、色々苦労させられちゃうんだよね。」ということを思い出してください。繰り返しになりますが、個人の能力や性格が原因ではないのです。

 

その上で、「闘争逃走反応」や「フリーズ反応」といった緊急対応システムから抜け出して、通常運転の状態に戻ることが必要になります。そのためには、様々な工夫や対処が必要になります。

 

また、別の記事で少しずつ紹介していきます。

 

参考図書

この記事は、以下の本を参考にして書いております。