お子様の登校・登園時間が迫ってきたときにお子様から「頭が痛い」「おなかが痛い」「足が痛い」などと訴えがあって、動けなくなるとか泣き出してしまうなどということがあります。つらそうに見えるため、お休みさせて様子を見ていると、昼過ぎには元気になって、ケロッとしていることも多いかもしれません。
本当は体調不良ではないのに仮病を使って嫌なことから逃げたのではないかと、心配される保護者様も多いかもしれません。
全体的に元気かどうかが大切
子どもの体調不良を考える場合に、一つ一つの症状に注目するのではなく、全体的な元気さが大切だと言われています。これは風邪などの一般的な病気でも同じです。「頭が痛い」との訴えがあったら、大切なことは【頭が痛いかどうか】ではなく、【全体的に元気かどうか】なのです。
【頭が痛いかどうか】は外からは分かりませんが、【全体的に元気かどうか】は外から見てある程度分かります。全体的になんとなく元気がない場合には、学校や保育所・幼稚園などはお休みするのがごく自然な判断だと思います。
最初にできるサポートするかかわり
カウンセリングでいつも、保護者の皆様にお勧めしている関わり方をお伝えします。
- 子:「痛い」→大人:「痛いと辛いね」 感情をつけて答える
- 「どの辺が痛いの?」などと聞いて痛い場所を特定させる
- その痛い場所を自分の手でなでるよう促す
- 大人が自分で自分のその場所をなでる
- 「このへんかあ~。痛いのは辛いなぁ」
- 親の場合は、親が子どもの痛い場所をなでる
- 一緒に深呼吸する
痛みは、他人が受けとめたり共感したりしにくいものです。子どもは、自分の痛みについて大人からサポートされている感覚が生じにくいと思われます。サポートされていないと感じると、不安や不快が大きくなります。その状況は、痛みなどの身体症状が強く感じられることにつながります。
上記のような関わりは、子どもを心理面をサポートしようとしています。子どもは自分の痛みが大人から受けとめられたと感じるのではないかと思います。それは子どもの状態が安定することにつながります。
仮病と体調不良はなかなか区別できない
そもそも、心の状態と体の状態は密接に関連し合っています。医学でも「心身相関」という言葉があり、その関連性を重視して医療を行うことが求められています。特に、子どもの場合は、心と体の状態は大人よりももっと密接につながっています。そのため、体調不良の訴えがあった場合、それが心の問題なのか体の問題なのか区別することは難しいものです。医療機関ではなくご家庭で、その区別にこだわることは、あまり重要ではないと思います。まずは、お子様が辛い思いをしているということが大切です。
体調不良の訴えは、非常ベルのようなもの
体調不良の訴えがあって泣いているなどの場合、何らかの不調に心や体のセンサーが反応して、サインを出しているわけです。つまり、体調不良の訴えは、いわば非常ベルのようなものです。非常ベルが鳴ったら、ただ単に非常ベルを消して、活動を続けるということはおかしなことです。今やっていることをやめて、避難するなど安全を確保することが大切です。体調不良の訴えでも同じで、まずは心と体の安心・安全を確保することが大切だと言えます。
こころの不調と体の不調を区別することは難しいですし、安心・安全を確保することが大切ですから、「仮病かもしれない」と思っても、お子様を休ませることは、ごく自然な判断だと言えます。
休ませると元気になることも多い
でも、お子様を休ませるとお昼前にはすっかり元気になることも多いと思います。保護者様としては、少し無理させてでも登園・登校させれば良かったと後悔したり、子どもに騙されたような気分になったりしてしまうと思います。理由はどうあれ、「子どもが元気になることは良いことだ」と捉えるのが良いと思います。
お子様にもともとある元気なる力(自己治癒力)が発揮されたのです。健康を維持したり、病気から回復したりするには、自己治癒力が上手く発揮されるようにすることが一番大切です。お休みさせることで自己治癒力が発揮されたわけですから、ご家庭のサポート力や保護者様のサポート力が素晴らしいのだと考えられます。
「これなら学校へ行けば良かったのに」とか「嘘の病気(仮病)何じゃないの?」とか「学校休みたかったから大げさに言ったんじゃない?」などと保護者様は心配や不安を感じるかもしれません。その場合でも、お子様にはそれを伝えずに、元気になったことをお子様と一緒に喜ぶのが良いと思います。「○○ちゃんには、もともと元気になる力があるから、少しお休みしただけで元気になったんだね」と伝えても良いと思います。そして、せっかくお休みした訳ですから、心と体が元気になるようなことを親子で楽しむことができたら最高に良いと思います。
何度も繰り返す場合
体調不良の訴えがあって休ませるとすぐに回復するようなことが何度もあると、保護者様の迷いは大きくなることと思います。そういう体調不良の訴えはあまり取り合わず、厳しく接して登校・登園させた方が良いとお考えの方も多いかもしれません。
ところで、体調不良の訴えは非常ベルのようなものだと上でお伝えしました。【何度も体調不良の訴えがあって、休ませると元気になる】というのは、非常ベルが何度も鳴るけれども、目立った問題が起きないということだと言えます。この場合には、どうすれば良いでしょうか?
悪い対処方法は、非常ベルのスイッチを切ってしまうことです。何らかの問題が起きた場合には、全く気づくこともできずに、大きな事故や災害に発展してしまうでしょう。反対に、適切な対処はきちんと原因を探ることです。
子どもの体調不良の訴えも同じです。あまり取り合わずに登校・登園させることは、しばらくの間は問題が起きないかもしれません。子どもが無意識的に非常ベルを切ってしまった可能性があります。そして、本当に大きな問題になってから大人が気づくようになる危険性があります。
何度も繰り返す場合には、お子様から丁寧にお話を聞いてみることが第一歩です。しかし「どうして頭が痛くなるの?」などと聴いても、なかなか意味のある返事は得られないと思います。
小学校の低学年ぐらいの年齢であれば、「お腹さんは、何て言ってるかな?」などという感じで、「お腹さん」と擬人化して聞いてみることもひとつの方法です。この場合、あまり具体的な回答がなくても「お腹さんが、何か言ってきたら、ママにも教えてね」などと投げかけておくこともできます。お腹さんが何て言ってきたかをもとにして、話ができると、子どもが辛い思いをしている原因が少しずつ分かってくるかもしれません。
また、年齢が上のお子様の場合、「いつから痛くなったの?」「何をしてるときに頭が痛いの?」などと、どの場面や行動の時に体調不良が生じたのかを具体的に聴いてみることがお勧めです。もしかしたら「学校の準備をしてるときに頭が痛くなった」などと具体的な場面が分かることもあります。
場面が分かれば、その時に何を思いだしたか?、何を考えていたか?ということも聞いてみることができます。例えば、「準備してるときに、どんなことが頭の中に出てきたの?」などという感じです。「○○ちゃんが○○したんだよ」などと答えがあれば、まず最初に「教えてくれてありがとう」と返します。「そうやって教えてくれると、お母さんはちょっと安心するなぁ」などと返しても良いと思います。その上で、「思い出すと、心配になっちゃうね」「考えるだけで、悲しくなっちゃうね」などと返します。
「○○ちゃんが○○したんだよ」というのは、ある時に体験したイヤな出来事の記憶です。その記憶が「また、○○ちゃんが○○するかもしれない」という不安につながります。保護者と一緒にその記憶に目を向け、不安に触れることは、不安に振り回されていない状況です。こんなふうに親と一緒に安定した気持ちで、自分のイヤな体験に触れることは、子どもの心理的な柔軟性と粘り強さを育てていくのです。