中学生や小学生のお子様をお持ちの保護者様は、お子様がゲームをやりすぎてしまうことで色々と悩んでおられることが多いと思います。
一方で、「ゲーム障害」や「ゲーム依存」という言葉もテレビやネットで飛び交っていて、非常に心配な気持ちになってしまうことと思います。
ゲーム障害とは
「ゲーム障害」という言葉は、医学的な診断基準の一つです。「ゲーム障害」の状態は単なる「ゲームのやり過ぎ」とは違って、医療的な支援や治療が必要な状態だと言えます。その両者の違いを区別し、治療や支援の必要な人を明確にするために、診断基準が定義されているのです。
国際的な診断基準である国際疾病分類第11版(ICD-11)には、「ゲーム障害」の定義が、2018年6月に追加されました。そして、この定義は、2019年5月にWHO総会で正式に承認され、2022年1月から正式に発効されました。
ゲーム障害の定義(ICD-11)
臨床的特徴
ゲームのコントロールができない。
他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを選ぶほど、ゲー ムを優先。
問題が起きているがゲームを続ける、または、より多くゲームをす る。
重症度
ゲーム行動パターンは重症で、個人、家族、社会、教育、職業やほか の重要な機能分野において著しい障害を引き起こしている。
期間
上記4項目が、12ヵ月以上続く場合に診断する。しかし、4症状が 存在し、しかも重症である場合には、それより短くとも診断可能。
ゲームをやりすぎることによって、社会的、あるいは現実的な問題が問題が生じているということが、「ゲーム障害」の非常に重要なポイントです。夜中までずっとゲームをやっていて、朝起きられなくなって学校を欠席してしまうとか、学校に行っているけれども授業中ずっと寝ているということが当てはまると思います。
「ゲームのやり過ぎ」と「ゲーム障害」の違いは、医学的な治療や支援が必要な状態かどうかという点で大きな違いがあります。「ゲームのやり過ぎ」は日常的な問題ですが、「ゲーム障害」は専門的な治療や支援が必要なのです。
つまり、「ゲームのやり過ぎ」は一般的な言葉で、「ゲーム障害」を含む広い範囲の状態を指すと考えると良いと思います。
ゲーム依存とは
「ゲーム障害」という言葉は、上で見たように、医学的な診断基準で【状態】に注目して定義されています。
「ゲーム依存」という言葉は、【状態】ではなく【依存】という心理的なメカニズムに注目している言葉です。そのため、「ゲーム依存」を理解するためには、【依存】というメカニズムを理解する必要があります。
依存とは
ある何か(物事や行動)によって、快感や多幸感などの強いプラスの感情がもたらされる場合、そのプラスの感情を追い求める行動がエスカレートしがちです。そして、次第にその何か(物事や行動)のコントロールができなくなってしまいます。それによって、健康の問題や家族関係の問題、社会生活の問題が生じてしまうことも多くなります。このように、強いプラスの感情を求めて行動のコントロールができなくなってしまい、様々な問題が生じることが【依存】と呼ばれています。
つまり、「ゲーム障害」と「ゲーム依存」は、表裏一体のような関係です。結果的に同じ状態や状況を指していることが多いと思います。状態としては「ゲーム障害」で、メカニズムとしては「ゲーム依存」と考えるのが良いと思います。
その依存というメカニズムに注目して【ゲームのやりすぎ】を説明したのが以下の図です。
こういったメカニズムが進行すると、ゲームばかりに時間を使っていて、他のことはほとんどしないような状態になりがちです。それを表したのが以下の図です。
ゲームのやり過ぎから抜け出すためには
以上のような、「ゲームのやり過ぎ」「ゲーム障害」「ゲーム依存」から抜け出すためには、「依存」のメカニズムを理解して、そのメカニズムが働かないように工夫することが大切なのです。
ポイントは、ゲームをやめさせるのではなく、ゲーム以外の活動を増やすことです。
それを表現したのが以下の図です。
まず、大切なことは、背景にあるストレスに対処することです。問題そのものを解決することが大切な場合もあると思います。解決できないとしても、人に相談するだけでもストレスが大きく低下することもあります。ゲームにばかり注目するのではなく、何らかのストレスがあることに目を向けることがまず大切になります。
また、ゲームをやめさせようとするのではなく、ゲーム以外の方法で、マイナスの感情が小さくなりプラスの感情が大きくなるような活動を探すことが重要です。例えば、音楽を聴くことは、簡単にできる非常に良い方法です。自分の趣味に没頭するようなことも非常に良いかもしれません。また、お手伝いをすることも、家族に感謝されるなど良い反応が得られるため、ゲームのやり過ぎを緩和するために役立つことが多いと思われます。
親にできること
図にもありますが、ゲーム以外の活動を始めるためには、「きっかけ」「親からの促し」が必要です。ゲームは、様々なイベントを用意してあったり、ゲームを始めようと思うきっかけがたくさんあります。ゲームから抜け出すためにも、良いきっかけを上手に与えることが大切になります。
その他の関わり方
ここまでの内容では、依存のメカニズムが進んでいかないように、ゲーム以外の活動でプラスの感情が生じるような工夫が必要であることを解説しました。
その他にも、いくつか重要なことがあります。
例えば、環境や状況を見直すことも大切です。知らず知らずのうちに家庭や家族の関わりによって、ゲームに快適に没頭しやすい環境・状況になっていることがよくあります。例えば、子どもの要望にあわせて、食事を自室まで運んであげていると、子どもは食事の時にもゲームをやめる必要がありません。スナック菓子が常備されていると、ゲームをやりながらそれらを食べて、食事をとる必要もないかもしれません。
そういった環境や状況は、子どもがゲームをやりすぎることを助長してしまっています。そういった状況・環境がないかチェックして、変えていくことも大切です。
また、家族内のコミュニケーションがお互いに気持ちよく交わせていることも重要です。人は他者とコミュニケーションを取りたいという欲求があります。家族とのコミュニケーションが不快だったり乏しかったりすると、ゲームの中に人とのコミュニケーションを求める気持ちが強くなります。ちょっとした挨拶や雑談なども大切にして、コミュニケーションを取るようにすることもゲームのやり過ぎから抜け出すためには非常に大切です。
専門家の支援を活用してください
以上のように、「ゲームのやり過ぎ」から抜け出すためには、ご家庭でのお子様への関わり方が大切です。ゲーム以外の活動を増やしていくためには、ご家族の声かけや関わり方を色々と工夫していくことが効果的です。ご家庭での具体的な場面や状況に応じて、専門家と一緒に考えていくと良い方法やアイディアが見つかりやすいと思います。
ぜひ、専門家の支援の一つとして、リソースポートを活用してください。お問い合わせはお気軽にどうぞ。
この記事は、半田一郎(公認心理師、臨床心理士、学校心理士スーパーバイザー)が作成しました。