毎日新聞に、「いじめ相談内容、保護者の意向に反し学校に漏らす 西宮市教委」という記事が掲載されていました。
https://mainichi.jp/articles/20220302/k00/00m/040/052000c
スクールカウンセラーや心理職として、この問題は誰にでも降りかかってくる問題だと思います。記事を元に考察してみました。
組織の問題と捉えるべきでは?
教育行政という大きな組織の中の中で、(おそらく非常勤の)心理士による相談活動は組織の動きの中のごく一部分を担っているに過ぎません。組織がしっかりと相談活動の役割や機能を組織の活動全体の中に位置づけることが大切で、それが不十分だと深刻なケースでは支援や対応が上手くいきません。
今回の事案の問題は、相談活動を組織の中に適切に位置づけていなかったために生じた問題だと考えられます。少しずつ考えて行きます。
いじめ相談の役割や機能
色々な教育委員会で、いじめの相談窓口が設けられていて、いじめの相談が行われています。ホームページで周知されていますが、どのような役割や機能を果たしているのかについては、明確にされていないことがほとんどです。しかし、いじめの相談では、相談を受けた後の対応や支援は、事案の特徴や相談者の思いやニーズによって、様々な対応が求められるはずです。大きく、以下の4つに分けて考えます。
(1) 相談者の気持ちを受け止めて、心理的なケアをする
(2) 具体的な対処方法をアドバイスする
(3) 相談者からの情報を基にして学校に働きかける
(4) 相談者とチームになって、対策を考え事態に対処する
(1)と(2)は、相談という枠組みの中で対応・支援できるケースです。ほとんどの相談の中で自然に行われているものです。多くの場合、この(1)や(2)の関わりで、相談は進んでいくと考えられます。
(3)は、現実的な対応が必要な場合です。学校という枠組みの中で対応・支援しなくてはならないケースだと言えます。できるだけ早く、いじめを止めなくてはならない場合には、(3)の対応が取られることが多いと思います。この場合、相談者から了解を得つつ、どのような目的でどのように働きかけるかについて、相談者と共通理解を得る必要があります。しっかり打ち合わせをしてかなり具体的に決める必要があると思われます。もちろん当事者である子ども本人の思いやニーズをしっかりと踏まえる必要があります。
(4)は、深刻ないじめが生じている場合です。深刻ないじめが生じている場合は、被害を受けているこの児童やその学級に問題が生じていると考えるのではなく、この学校全体が対処する機能を失っているという問題だと考えることが必要です。そのため、(3)のように単に学校を指導するということでは、かえって問題が大きくなってしまう可能性がたいと考えられます。(4)は学校が機能していないため、学校という枠組みを超えて、市の教育行政として対応・支援するケースです。この場合は、保護者や子どもと市教委の担当者がチームになって、支援や対応を考えなくてはなりません。極めて具体的に打ち合わせをして、子どもや保護者の気持ちに寄り添いながら、一歩ずつ丁寧な支援・対応が必要になると考えられます。
このように対応や支援が異なってくるわけですから、いじめ相談を運営している組織(市教委)が、いじめ相談の役割や機能を以上のような形で整理して捉えていることが極めて大切です。どのような事案で、どのような対応や支援を行うことが望ましいのかを明確にして、その際の対応の流れを明確にすることが求められます。そして、市教委として、それを組織内(相談員を含む)で共通理解を図ることが重要です。
今回の事案について
今回の事案では、深刻ないじめが生じているという事案の性質上、(4)の対応が必要だったと考えられます。しかし、(3)の対応をしたために、問題が大きくなったと捉えることが適切だと思います。一方、記事では情報を学校に漏らしたことが問題のように書かれていますが、相談者と上手くチームになって支援・対応を行っていくことができなかったという問題だと言えます。その背景にある、組織としての準備不足こそが本質的な問題です。
ところで、記事では市教委のコメントが以下のように紹介されています。
「市教委は、保護者への確認不足と、担当者間での情報共有の不足があったと認め、今後は保護者の意向確認の徹底や、複数の担当者で対応方法を確認するとしている。」とのことです。
このコメント自体が、市教委が十分に理解できていないことを明確に示しています。そもそも、いじめ相談の役割や機能を明確に位置づけることができていないということがあるのですが、担当者の問題や担当者間の情報共有の問題にしてしまっています。まずは、いじめの電話相談が果たすべき役割や機能から整理して考えなくてはならないと思います。
心理職として
以上のように、相談活動が組織の活動の中で役割や機能がしっかりと位置づけられていないことがあります。実際上、そのような場合は多いのではないかと思います。臨床心理士などの心理職は、自分の所属している組織が、心理職の役割や機能を組織の活動の中に位置づけているかどうかを、自分の専門性を生かして、しっかりとアセスメントする必要があります。そして、支援や対応がどの枠組みの中で行われるべきかを判断することが求められます。
こういった判断をもとに活動することがクライエントを守ることになり、さらには自分自身を守ることにもつながると思います。