更新:2023年5月29日
不登校は、ここ数年、ある程度社会的に受け入れられるようになってきました。例えば、いじめにあって辛い思いをしている場合、学校を欠席することも選択肢のひとっつだと言われることも多いと思います。
また、文部科学省は「(不登校は)どの児童生徒にも起こり得る」ものだという認識を示し、「(不登校を)「問題行動」と判断してはならない」とも言っています(不登校児童生徒への支援の在り方について(通知))。
つまり社会は「不登校もOKだよ」という捉え方に変わってきたのです。
しかし、それぞれの家庭の経済的負担を考えると「不登校もOKだよ」とはなかなか言えない状況があります。
フリースクールにかかる費用
不登校の子どもたちも、成長し自立していくためにも、なんらかの教育を受けることも重要です。
その一つの選択肢は、フリースクールです。学校のように、一斉指導のカリキュラムがあって教育が行われているのではなく、子ども一人ひとりにあわせて主体性や自主性を尊重して子どもへの教育活動が行われています。民間で運営されているため、家庭には費用の負担がかかります。
例えば、フリースクールの草分け的存在である東京シューレでは、月会費は50,000円を越えています(入会までの流れ/費用ーフリースクール東京シューレ)。 その他にも、色々と費用がかかるようです。
新たなサービスとしてネットを活用したサービスもあります。例えば、学校法人角川ドワンゴ学園N中等部のネットコースがあります。ここでは、月に40,000円を超える費用がかかります(ネットコースの学費|N中等部)。入学金やMacBook Airの費用もかかるため、1年間の出費は50万円を超える出費となります。
子どものためになるなら、気にならないというご家庭もあるかもしれませんが、1年間で50万円を超える金額は、大変大きな金額だと思います。
学習塾や通信教育にかかる費用
フリースクールに行っているのに、家庭教師、学習塾、通信教育を利用するというのは、驚く方が多いかもしれません。フリースクールは、それぞれに特色のある活動をしています。学校と同じような教科学習は必要最低限しか行われていないことも多いと思われます。そのため、国語や算数、英語などの学習をフリースクール以外で補うことが必要な場合もあります。
小学生の場合は“読み書きそろばん”と言われる基礎学力を身につけることは、非常に重要です。また、この先、中学校・高校へ進学することも念頭に置くと、学習内容を身につけていくことも必要です。中学生の場合は、高校進学のための受験を考えると、学習は重要です。
こういったことがあるために、不登校の子どもたちのなかには、フリースクールと塾、フリースクールと通信教育のような【 ダブルスクール 】と言っても良い状態で頑張っている場合もあります。
当然なことですが、家庭教師、塾、通信教育は不登校かどうかにかかわらず費用がかかります。塾などの費用はまちまちですので、文部科学省の調査から費用を見てみます。学習費の総額は、小学校は公立約35万3千円,中学校は公立約53万9千円の費用がかかるようです(文部科学省 令和3年度子供の学習費調査)。なお、総額には、「学校教育費」「学校給食費」「学校外活動費」が含まれています。
学校にかかる費用
意外に思われる方が多いかもしれませんが、不登校で学校へ行っていないにもかかわらず、その学校に費用がかかります。
例えば、授業で使うドリルやワークなどの学習教材が挙げられます。全く学校へ通っていない場合でも、そういった学習教材は購入することがほとんどです。“子どもが学校へ行ったときに使うから”という理由で購入される保護者がほとんどだと思います。また、購入することが当然という位置づけで、購入するかどうかを聞かれないまま費用の支払いをする場合もあるようです。
また、修学旅行の費用もあります。“修学旅行に行かせてあげたい”、“修学旅行に行くことができたら学校にも行けるようになるかもしれない”などという保護者としての思いがあって、修学旅行をキャンセルしづらい場合が多いようです。行かなかった場合でも、キャンセルが遅れて実質的に費用を負担したり、キャンセル費としてある程度の費用を支払うこともあると考えられます。
給食費も同様です。“学校へ行ったときに給食がなかったら子どもが困る”と思って、欠席が続いていても給食をストップしない保護者も多いように思います。
ここでも、文部科学省の調査から費用を見てみます。公立小学校の場合、学校にかかる費用は年間約6万6千円、給食費は約3万9千円です。公立中学校の場合、学校にかかる費用は年間約13万2千円、給食費は約3万8千円です(文部科学省 令和3年度子供の学習費調査)。
こういった費用について全額を不登校の家庭でも負担しているとは限りませんが、この金額に近い費用を負担していると考えられます。
いわば、【 トリプルスクール 】のような状態にあると言っても良いかもしれません。
こういったことについて、家庭の実情を具体的に紹介しているブログがあります。
以下のリンク先からご参照ください。
社会全体の問題と捉えることが重要
こういった費用を各家庭だけに負担を求めることは、文部科学省の姿勢と整合性がとれないと考えられます。
上でも書いたように、文部科学省は「(不登校は)どの児童生徒にも起こり得る」ものだという認識を示し、「(不登校を)「問題行動」と判断してはならない」とも言っているからです(不登校児童生徒への支援の在り方について(通知))。
また、不登校の児童生徒は、令和3年度には過去最高の約24万5千人となっています(令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要)。
24万人という非常に多くの子どもたちに共通する問題ですから、個別の家庭で対応するべき問題ではなく、社会全体や教育行政の仕組みとして解決していかなくてはならない問題だと思います。
社会の仕組みとしてできること
今現在16万の子どもたちにあてはまり、これからも「どの児童生徒にも起こり得る」不登校という状態に対応するためのものですから、ある程度の費用をかけて国が仕組みを整備するべきだと思います。
その仕組みは、【不登校の家庭に経済的サポートを行う】【全国交通のオンライン学習のコンテンツを作る】【オンライン学習をサポートする仕組みを作る】というものです。
不登校の家庭に経済的サポートを行う
フリースクールなどの費用を自治体が補助することも、直接的なサポートになると思います。こういった制度は、一部の自治体で始まっています。
多くの自治体に広まっていってほしいと思います。
全国共通のオンライン学習のコンテンツを作る
今回のコロナウィルス感染拡大への対応として、全国の学校が休校となってオンラインでの学習が推奨されました。この経験を生かして、24万人の不登校の子どもたちがオンラインで学習できるコンテンツを文部科学省が主体となって作ることが良いのではないかと思います。
また、学校の学習活動は学習指導要領に沿って行われていますが、その内容は5~10年で改訂されています。つまり、一度作ったオンライン学習コンテンツは、5年程度はそのまま使えるのです。毎年24万人と考えると、のべ120万人の子どもたちの役に立つわけです。これは作らない理由がありません。
また、今回のコロナウィルス感染拡大のような、突発的な事態が生じた際にも、子どもたちの学習を支えるためにこのオンライン学習コンテンツは役に立つはずです。また、家族と一緒に海外で過ごしている子どもたちは、7万8千人と言われています(海外で学ぶ日本の子どもたち)。こういった子どもたちの学習にも役に立つと思われます。
こんなふうに、オンライン学習のコンテンツは不登校の子どもたちの役に立つだけではないのです。
オンライン学習をサポートする仕組みを作る
不登校の子どもたちの学習やサポートのために、「教育支援センター」が公的なサポート機関として設けられています。かつては「適応指導教室」と呼ばれていました。いわば公立のフリースクールです。ただ、学校への復帰にこだわる傾向があったり、利用手続きの煩雑さや交通が不便さなどの理由から利用できない子どもたちがたくさんいます。いろいろな理由から来所できない子どもたちには、支援が届いていないのです。
もし、オンライン学習のコンテンツがあったら、教育支援センターに来所できない子どもたちもオンラインでサポートしやすくなると思います。担任の先生が片手間に不登校の子どもたちをサポートするのは、先生方の負担軽減という時代の流れと逆行してしまいます。そうではなく、各市町村でオンライン学習サポート担当の先生を置いて、子どもたちをサポートしたら良いと思います。
こういう仕組みができると、多くの子どもたちが学習を継続でき、一人ひとりの成長につながっていくと思います。
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会話のヒント、高校進学のヒント、勉強法のヒントなど、8つのヒントを詳しく解説しています。
不登校について、行動と言葉の一致や不一致から考えてみました。
不登校の子どもたちは、新学年や新学期に登校することが良くあります。でも、意外とすぐに欠席が続いてしまうことが多いと思います。不登校の子どもたちが、無理をしながら登校していることが背景にあります。
不登校の子どもたちは、ある日突然学校へ登校してきたりします。事前に予告しないことによって、自分のペースを守ろうとしているのではないかと思います。
「別室登校」が注目されています。不登校の子どもたちの支援のために、適応指導教室(教育支援センター)が設けられていますが、それだけでは、不登校の子どもたちに支援が届きにくいようです。「別室登校」について解説しました。