『茨城県いじめの根絶を目指す条例』が、2019年12月20日に茨城県議会で可決されました。2020年4月1日施行となります。
茨城県のホームページには、条例が公開されています。
ところで、リソースポートには、いじめによる被害によって学校に行きづらくなっている子どもたちの相談が何件もあります。この条例によって、少しでもいじめで辛い思いをする子どもが少なくなることを祈っています。
この記事では、いじめ被害を受けた場合に手助けになる可能性のある部分を、いくつか解説していきます。
いじめ被害を受けた場合に助けになる条文
第16条は「いじめに対する措置」として、条文が8項あります。その中には、被害を受けた子どもたちの支援に関連する条文があります。
被害受けた子どもへの支援に関する条文
県は,いじめに起因して不登校になっている児童生徒について,市町村,学校その他の関係者と連携し,当該児童生徒の心身の状況に応じて,学習活動等の場の確保,相談その他の支援措置を講ずるものとする。(第16条 第1項) |
県は,いじめから児童生徒の生命及び心身を最優先で保護するため,助けを求める児童生徒の思いをしっかりと受け止めることに意を尽くし,市町村,学校,家庭その他の関係者と連携し,適切に対応するものとする。(第16条 第2項) |
第1項には、いじめ被害から不登校になった場合にも、その子どもの学習活動をサポートするということが書かれています。しかし、いじめの被害を受けた子どもたちは、学校へ行くような気持ちになれないことも多いと思います。実は、そういった場合についても、条文では想定されています。「心身の状況に応じて,(中略)支援措置を講ずるものとする。」と書かれているのです。“学校へ行けるような心身の状態にない場合”にも、その状況に応じて支援を受けられるということです。
第2項には、いじめ被害を受けた子どもたちの気持ちを受け止めることが書かれています。いじめ被害を受けた子どもたちの気持ちは、様々に揺れ動くことが多いものです。その気持ちを「しっかりと受け止めることに意を尽くし」適切に対応すると書かれているのです。この条文のように、まずは、子どもの気持ちをしっかりと受け止めることが大切だと思います。
子どもが被害を受けている場合に、その子どもの気持ちがないがしろにされてしまうこともあります。そうではなく、この条文のように、児童生徒の思いをしっかりと受け止めることに意を尽くすことは、本当に重要なことだと思います。
加害の子どもへの対応に関する条文
学校及び校長その他の教職員は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受けられるようにするため,法第 23 条第4項の規定に基づき,いじめを行った児童生徒について,いじめを受けた児童生徒とは別の場所で学習を行わせる措置その他の必要な措置を適切に講ずるものとする。(第16条 第5項) |
県は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受けられるようにするため,市町村教育委員会が法第 26 条の規定に基づき,いじめを行った児童生徒の出席停止の措置その他の必要な措置を適切に行うよう,必要な指導,助言又は援助を行うよう努めるものとする。(第16条 第6項) |
いじめの被害を受けた子どもが学校へ行けなくなって、いじめ加害をした子どもが普通に学校へ通っているという状況になることが多いと思います。被害を受けた側が、さらなる負担を強いられるという状況になっています。
第5項は、そういう現状を変えていくことにつながる内容です。いじめ加害を行った子どもを別の場所で学習させるようにすることもできると書かれています。必要に応じて、いじめ加害を行った子どもが、学校内の別室で学習させることもできるということになります。また、いじめ加害を行った子どもを(学校ではなく)教育支援センターに通うようにさせ、そこで学習活動を支援することもあるかもしれません。
こういった方法は、出席停止措置よりも実施しやすいため、学校にとっては現実的な選択になると思います。
第6項は、必要な場合には出席停止措置を行いやすくするための条文です。いじめが深刻な場合には、こういった方法を取ることも大切だと思います。
この条例によってどう変わるか?
被害者への適切な支援が行われていない現状
現状では、適切な対応が行われず、次のような事態も生じがちだと思います。
ある子ども(A)がいじめ被害を訴えると、担任の先生が主導になって動いてくれた。Aは「今はそっとしておいてほしい」と担任に訴えたが、担任は「早く解決することが大切だから」と言って、すぐに加害側の子ども(B)を呼び出してAに謝罪させた。次の日から、BはAとは距離を置いて遠くからAを見て友達と何か話していることが多くなった。AはBの姿を見かけるだけで、不安を強く感じて教室に居づらくなった。何日か過ぎると学校へ通うこともできなくなってしまった。担任に相談したが、「もうBはいじめはしていないのだから、心配なのはAの考えすぎのためで、気にせず教室に通ってくるように」とのことであった。担任にそう言われたが、Aはなかなか安心して学校へ通う事はできず、不登校が続くようになった。 |
条例によって被害者の支援が改善される
条例に書かれていることがきちんと実現されると、次のように対応が変わると期待できます。
ある子ども(A)がいじめ被害を訴えると、担任の先生が、まず話をよく聴いてくれて、気持ちをしっかりと受け止めてくれた。Aは「今はそっとしておいてほしい」と担任に訴えると、担任は「まずは、先生が注意深く見守って、気がついたことがあったら相手を注意したりする」と言ってくれた。次の日、担任は、加害側の子ども(B)がAに悪口を言っている場面をその場で発見し、Bを注意した。何度か注意することが続いたが、改善しないため、担任はAと打ち合わせた上で、Bを呼び出して指導しAに謝罪させた。それ以降も、同様の行動が続くため、3回ほど、同様にBを呼び出して指導しAに謝罪させた。しかしBの行動が改善しないため、次第にAは学校へ来られないことも増えてきた。そこで、Bの両親と話し合い、当面の間、行事のない日にはBは別室登校として、担任以外の教員が学習活動を支援する事となった。Bが教室にいない日には、Aは教室で不安なく活動する事ができたとの事であった。 |
いじめの被害を受けて、学校の対応や支援に疑問がある場合には、この条例をもとにした支援が受けられるように学校に働きかける事も良い方法かと思います。
茨城県いじめの根絶を目指す条例 第16条
(いじめに対する措置)
第 16 条 県は,いじめに起因して不登校になっている児童生徒について,市町村,
学校その他の関係者と連携し,当該児童生徒の心身の状況に応じて,学習活動等の
場の確保,相談その他の支援措置を講ずるものとする。
2 県は,いじめから児童生徒の生命及び心身を最優先で保護するため,助けを求め
る児童生徒の思いをしっかりと受け止めることに意を尽くし,市町村,学校,家庭
その他の関係者と連携し,適切に対応するものとする。
3 学校及び校長その他の教職員は,法第 23 条第2項の規定に基づき,いじめの事
実の有無の確認を行うための措置及び当該学校の設置者への報告を適切に行うも
のとする。
4 学校及び校長その他の教職員は,いじめが犯罪行為として取り扱われるべきもの
であると認めるときは,法第 23 条第6項の規定に基づき,所轄警察署に通報し,
適切に援助を求めるものとする。
5 学校及び校長その他の教職員は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受
けられるようにするため,法第 23 条第4項の規定に基づき,いじめを行った児童
生徒について,いじめを受けた児童生徒とは別の場所で学習を行わせる措置その他
の必要な措置を適切に講ずるものとする。
6 県は,いじめを受けた児童生徒等が安心して教育を受けられるようにするため,
市町村教育委員会が法第 26 条の規定に基づき,いじめを行った児童生徒の出席停
止の措置その他の必要な措置を適切に行うよう,必要な指導,助言又は援助を行う
よう努めるものとする。
7 学校又は市町村教育委員会は,前2項の規定による措置を行った場合には,いじ
めを行った児童生徒の学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずるもの
とする。
8 県は,いじめを受けた児童生徒及びその保護者が法第 28 条第1項に規定する重
大事態の調査の内容を知ることの重要性に鑑み,市町村教育委員会及びその設置す
る学校が,いじめを受けた児童生徒及びその保護者に対し同条第2項の規定による
情報の提供を適切に行うよう,市町村教育委員会に対し,必要な指導,助言又は援
助を行うよう努めるものとする。