本を紹介したいと思います。
東京学芸大学教授の大河原美以先生の書かれた『子どもたちの感情を育てる教師のかかわりー見えない「いじめ」とある教室の物語ー』(明治図書)という本です。
「いじめ防止対策推進法」が施行され、法律に則ったいじめへの対応が求められるようになりました。学校現場では、いじめの防止やいじめへの対応を重要な教育課題として取り組んでいることだと思います。
この本の副題には、『見えない「いじめ」』という言葉があります。学校の教室では、様々な個性を持った多くの子どもたちが関わり合って学校生活を送っています。そいういった教室の日常のなかでは、大人の見えないところで、「いじめ」が進行していることもあります。また、大人が気づいていても、それが「いじめ」とは思えない場合も多いかもしれません。この本では、教室の現実をしっかりと踏まえて、『見えない「いじめ」』にどんなふうに対応していくのかについて具体的に書かれています。そういう点では、「いじめ防止対策推進法」に則って指導支援をしていくためにも、この本に書かれている内容は非常に重要なものだと思います。
実は、この本は「いじめ防止対策推進法」が施行される6年も前、2007年に書かれた本です。その本が、今現在も重要な内容を含んでいるということは、著者の心理臨床的な視点の深さを示しているのだと思います。しかし、その反面「いじめ防止対策推進法」の施行を経ても、いじめへの対策や支援について、本質的な進展がないということでもあると感じます。
この本は、9人の子どもたちの教室での日常について担任教師の立場から見えてきたストーリーを中心に書かれています。例えば、ある子どもは、最近休みが続いているのですが、実は「いじめ」を受けているかもしれないという状況です。また、別の落ち着きのない子どもは、となりの子どものノートを破ってしまいます。ノートを破られた子どもは、ショックを受けて大泣きしています。しっかり者でクラスのリーダー的な存在の子どもは、教師の見えないところで他の子どもを攻撃しているようです。また、自傷行為のある子どももいます。まだ、他にも4人の子どもたちが登場してきます。
こういった子どもたちの複雑な相互作用のなかで、どのようにして「いじめ」に対応し子どもを支援していくのかについて、「感情を育てる」ということを軸にして書かれています。「いじめ」や他者への攻撃的な行動、自傷行為などの問題行動の背景には、不快感情があり、それが適切に「社会化」されていないために、問題行動となって現れてしまうということです。
感情の「社会化」とは、感情が育つということの一つの側面なのですが、あまり聞き慣れない言葉です。感情をコントロールすることや感情を言語化することについて解説することを通して、「社会化」ということについてわかりやすく解説しています。そして、それを教育場面でどのように生かしていくのかについても述べられています。
しかし、この本はそれだけではありません。子どもたち9人のストーリーに担任教師が悩みながら関わり支援していくストーリーが具体的に書かれています。しかも、どんなふうに支援していくのかについて、具体的な言葉のやりとりも紹介されています。読むだけで、「こんなふうに支援していけば良いいんだ」と発見でき、今すぐに学級の子どもたちへの支援に役立つ内容が書かれています。
学級担任をされている先生や、先生方とのコンサルテーションを通して子どもたちを支援しているスクールカウンセラーにお勧めしたい一冊です。
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